【フォーカシングとは】アダム川とイヴ川という二つの心の物語
心理セラピーの中でもっともベーシックとされる、「フォーカシング」という自分の胸の内側との関わり方の技法について、自分なりに噛み砕いて物語にしました。
その二つをいかに自分に満たしてあげられるのか、それにはどうしたらいいのか、
自分の心とのつながり方のそのお話です。
胸の内側の世界を覗くと、そこには大きな入口があった。
入り口の先には大きくて美しい川が二つ流れていて、その世界で暮らす人々は、その入り口に豊かなものを注ぐことで幸せになると考えられていた。
人々は競ってその入り口に、沢山の豊かな富を入れていった。
その二つの川は「アダム川」と「イヴ川」と呼ばれていました。
貧困に苦しむ人々は、遊ぶことも拒み汗水働くと、労働で得た沢山のお金や収穫や名誉などの富を、その胸の入り口に大事そうに入れていった。
そのたびに大勢の人々は幸せを感じた。
しかし不思議なことに、お金や収穫などの富をその胸の入り口に入れれば入れるほど、なぜかアダム川だけが豊かな水を流す、澄んだ川になっていった。
そのアダム川の澄んだ奇麗な水辺には、沢山の動物達が水を飲みにやってきた。
そのあとは世界中からも人々が集まった。
人々はその水辺で沢山の話しをした。
不思議と動物達とも言葉が通じた。
言葉の違いなど関係のない世界だった。
やがその集まりは街となり、人と動物が手を取り合う豊かな流れの川辺の街となった。
その隣にはイヴ川という川が流れていた。
イヴ川はアダム川からもよく見える場所に流れており、歩いてもすぐの距離だった。
二つの川は同じような大きさと同じような長さを持つ川だった。
しかしイヴ川は水の量は少なく濁り、干上がりかけていた。
なぜか太陽の日差しまでもがイヴ川を避けているかのようだった。
日も射さないイヴ川は、草木も全く生えない荒野となりかけていた。
動物達はわざわざイヴ川を無視して渡り、アダム川の水を飲んだ。
人々はイヴ川に橋をかけてまでアダム川にやってきた。
人々が一度アダム川にやってくると、人々も動物達もどうやってイヴ川に行けば良いのかわからなくなった。
人々も動物も、すぐにイヴ川の事は忘れていった。
アダム川に街を作った人々は、長い間イヴ川の存在を忘れていた。
「そんな川があったのか?」
ある日の街ではそんな会話がされていた。
すぐ目の前の距離であったにもかかわらず、イヴ川の存在など誰も気にすることはなかった。
「僕は、父にも母にもそんな川があるなんて聞いたことはない」
街中を走り回る子供達までもイヴ川の存在に気がつかないでいた。
イヴ川の存在を忘れていった人々は、原因もわからず心の苦しみを訴える人々が次々に現れだした。
動物たちも、悲しい鳴き声を撒き散らし、水も飲まなくなった。
ある日誰かが叫んだ。
「おい、あの川はなんだ、!誰かあの川を知っているか?! あんなに干上がっているじゃないか?!」
「本当だ! あんな川知らないぞ!」
ようやく人々は、イヴ川がやせ細り枯れてしまいそうな酷い川になっていることに気がついた。
もうそれはすでに川とは思えないほど干上がっており、地面には沢山のひび割れが走った。
川辺には不格好な大きな石がごろごろと転がり、人々を悲しみに包んだ。
人々は今までずっと、アダム川の畔りで物にあふれた富み豊かな暮らしを楽しんでいた。
しかしイヴ川の酷い様子を見ると、苦しみや、悲しみ、寂しさを訴える人が続出した。
なぜ、やせ細る川を見てこんなにも辛い気持ちになるのだろう……。
得体の知れない苦しみに、人々は思い悩み苦しんだ。
人々と動物達は集まり話しをした。
「もっとお金をあの胸に入り口に入れてみよう」
と、ある大きな熊が言った。
「そうだこの収穫もすべて入れてみよう」
と、ある商人は言った。
「我々のアダム川はそうしてここまで発展したんだ」
「そうだそうだもっと入れよう、もっと入れよう」
と人々と動物達は、ありったけの富をその胸の入り口に入れた。
しかし放り込めば放り込むほどアダム川はますます豊かになり。
そして人々はまた、イヴ川のことをまた忘れて行った。
人々も動物も、目の前にある楽しさや豊かさに満たされてはいたが、得体の知れない辛さは、変わらず心の一部を暗い思いにさせたままだった。
イヴ川はさらに水の量を減らし、岸には干上がった魚が悲しく打ち上げられていた。
人々も動物たちも、目の前にある楽しさや豊かさに満たされてはいたが、得体の知れない辛さは心の一部に影を落としたままだった。
どんなに話し合っても探しても、その原因がなんなのかまるでわからなかった。
そしてまたアダム川の豊かさに目を奪われると、イヴ川のことを忘れて行った。
ある日、つばの大きな帽子をかぶった、1人の若い男がアダム川にやってきた。
男は人々と動物たちに話しかけた。
「なぜ向こうの川はあんなに干上がっているのですか?」
「向こうの川、というのは何のことですか?」
人々と動物たちは、男が何を言っているのか、まるで理解できなかった。
「目の前に見えるあの川のことです」
「目の前?ああ……、忘れていました。あれはイヴ川といいます」
「しかし、なぜ干上がっているのかわからないのです」
「わからない?」
「はい、我々も気になって何度もお金や収穫などの富を、あの胸の入り口に入れるのですが、何の効果もなくどんどん酷くなっていくんです」
「……」
「我々の住むこのアダム川は、あの胸の入り口にお金や富を入れると、とても潤うのですが……」
人々と動物たちは、イヴ川のことを思い出し肩を落とすと、うなだれた。
「あなたたちは、イヴ川の事を気にしていますか?」と男は眉をひそめ、首をかしげるように言った。
「ええ、それはもちろん気にしています。毎年一度は人々と動物達が集まりイヴ川のことを話し合います」
「一度ですか?」
「はい、毎年かかさずにです」
「そうですか……」
「沢山のお金と収穫をあの胸に入れています。我々のほぼすべての富。と言ってもいいほどの量です」
男はそれ以上は何も聞かず、人々の前から立ち去った。
男はそれから毎日胸の入り口からイヴ川へ行き、イヴ川を見た。
イヴ川がどんな様子でどんな「水」なのか細かく観察した。
そしてイヴ川に向かっていくつも優しく話しかけた。
「こんにちは」だったり、
「ありがとう」だったりと。
とても簡単な言葉ではあったけれど、男はアダム川にいる時間よりももっと長い間イヴ川に訪れては話しかけた。
アダム川に戻った時、隣に居合わせた背の低い青年が男に話しかけた。
「噂だと、あなたは毎日のようにイヴ川に行っていると聞きましたが、一体何をしているのですか?」
「『関心』を向けているのです」
「関心?」背の低い青年は、首をかしげた。
「はい、イヴ川に『関心』を持っているんです」と男は優しく微笑んだ。
「『関心』?というのは一体なんですか?」
「自分の価値観を手放し、相手と心の関わりを持ちたい。と望むことです」
「……わたしにはよくわかりません」背の低い青年は寂しそうな表情で言った。
つばの大きな帽子をかぶった男のそんなイヴ川への「関心」が1年も過ぎた頃、イヴ川を見ると小さは花が咲いていた。
男がいつも立っていた場所に立つと、川は男の靴を浅く水の中に浸らせていた。
男は変わらず毎日何度もイヴ川へ話しかけた。
「あなたがそこに居ることを私は知っていますよ」
「今どんな気持ちですか?」と男は言った。
……
…
少しの間待つと、川の水の流れが少しだけ変わり、水の色のが美しい鳥の羽の色のような青になった。
「うれしいです」
イヴ川は男へ応えた。
「それはよかったです」
男はイヴ川と話をした。
「あなたが来るまでは酷く孤独で、酷く寂しかったです」
「そうですか」
男は目を細め、その瞳を潤ませた。
「私がこれからも毎日ここへやってきます」
「それはとてもうれしいです」
「さようなら」
と挨拶をして男はアダム川に帰った。
男は考えた。イヴ川に家を建て、暮らそう。
男はアダム川で街の人間と動物達を集め、イヴ川との会話のことを話した。
するとすぐに数人の人間と数匹のやぎと犬が興味を持った。
月が下弦に光を減らした風も穏やかなある日の夜、男はその街の数人の人間と数匹のやぎと犬を連れて、男がいつも通るように胸の入り口からイヴ川のほとりへとやってきた。
目の前にイヴ川がある様子を興味深く見渡した、数人の人間と数匹のヤギと犬は、
「そうかこの胸の入り口から来れば良かったのか」
と口々にそう言った。
男達は比較的平らな川辺に荷物を降ろすと、大きな撒きを集め、乾いた小さな枝に火を付けた。
男は暖かいたき火を見ながら、数人の人間と数匹のヤギと犬に、男がどのようにイヴ川に話しかけているかを説明した。
男は小さな月の明かりを頼りに、数人の人間と数匹のヤギと犬を連れ、イヴ川の水辺に立った。
「こんにちは」
男は数人の人間と数匹のヤギと犬の前でイヴ川に話しかけた。
イヴ川は何も応えなかったが、川面に写る下弦の月が、風もなく波に揺られ形を変えるのが見て取れた。
「見えましたか?」
「見えました」
「イヴ川は喜んでいるようですね」
男は数人の人間と数匹のヤギと犬に向かってそう言った。
数人の人間と数匹のヤギと犬は顔を輝かせた。
日が昇り、イヴ川に辿り着いた人々は目を覚ました。
イヴ川とアダム川の源流の先から昇る太陽に、数人の人間と数匹のヤギと犬は涙を流した。
「アダム川から見る朝日とはまるで違います。アダム川から見る朝日もとても素晴らしいと思っていましたが、イヴ川から見る朝日はもっと素晴らしいです。」
髭を蓄えがっしりとした男がそう言った。
「今体のどこかで、何か感じますか?」
「胸の奥の方がゆっくりと暖かくなったような感じがします」
「それは素晴らしいです」
と男は言った。
「ではそれはどんな色をしていますか?」
「真ん中が赤い色をしていて、周りはオレンジ色をしています」
「それはとても素晴らしいです」
「これは一体何が起きたのですか?」
「あなたとあなたの心が繋がった。ということです」
「これが私と私の心が繋がった。ということなのですね」
「それが自分への『関心』ということです」
「これが自分への『関心』ということなのですね」
その会話を聞くかのように、目の前のイヴ川は水面を少しだけ揺らした。
その日からイヴ川に着いた数人の人間と数匹のヤギと犬は、仕事をしながら一日中イヴ川に話しかけた。
「おはよう」
と言ってみたり、
「今どんな気分?」
と言ってみたりした。
一言、二言ではあったが、数人の人間と数匹のヤギと犬は何度も話しかけた。
人々はそれが「関心」だということを男から教わった。
しかしまだ誰もイヴ川の言葉を聞いた者はいなかった。
イヴ川に男と数人の人間と数匹のヤギと犬がやってきてから半年が過ぎていた。
イヴ川はまだ水の量は少なかったが、来たときよりも明らかに水が澄んでいるのは誰が見ても明らかだった。
それからさらに半年が過ぎたある日、背が高く笑うとえくぼのできる青年が、いつものようにイヴ川に向かって話しかていた。
「おはよう、今どんな気分ですか?」
……
「とても気持ちがいいです」
「とても気持ちがいいのですね」
と応えると、背が高く笑うとえくぼのできる青年は、大事な物を見つけたかのように目を輝かせた。
「ありがとうまた来ます」
と言って青年は皆の所に戻った。
今までも皆が様々な川の変化を感じていたが、「会話」というものはまだ「男」にしかできてはいなかった。
背が高く笑うとえくぼのできる青年は、戻るとすぐに皆に興奮しながらこう伝えた。
「さっきイヴ川が応えてくれた」
「本当か、何と応えたのだ?!」
「『とても気持ちがいいです』と」
それを聞いていた人々は声を上げながらとても喜んだ。
人々の目が昨日までとはまた違う輝き見せた。
「なぜイヴ川は応えてくれたのですか?」
右手の指が一本少ない女が男に聞いた。
「それはあなた達がイヴ川へ『関心』を持ったからです」
と男は答えた。
つばの大きな帽子をかぶった男は、アダム川の街の収穫が終わったと知ったある晩、アダム川に戻り今のイヴ川の様子を人々と動物達に伝えた。
慌てて全員がイヴ川を見に行った。
川は満ち、水は麗に澄んでいた。
草や花が生えている様子も見て取れた。
それを見た大勢の人間と動物達が、
「イヴ川に行きたい」と言った。
男は街の半分の人々と動物達と、収穫された作物を持ちイヴ川へと向かい、胸の入り口を通ってイヴ川にたどり着いた。
人々と動物達は、今まで見たこともないようなイヴ川の潤う光景を目に映した。
人々と動物達は、今まで感じたこともないような胸の奥の喜びを感じた。
全員がそれぞれの方法でこみ上げた感情を表現した。
泣く者、笑う者、踊る者、歌う者、それぞれが皆胸の奥の扉を開けた。
それ以来、イヴ川に渡った人々と動物達は毎日イヴ川との会話を楽しんだ。
イヴ川はそれからはみるみる潤いと豊かさを取り戻した。
街の半分の人々と動物達と富がアダム川からイヴ川にやってきたのだが、不思議とアダム川の潤いと豊さは変わらなかった。
アダム川の暮らしの富は目に見えるほどの量を減らしたのだが、残ったアダム川の人々や動物達が悲しみ苦しむことはなかった。
それどころか、今まで感じたことのない豊かな「気持ち」を感じられるようになり、人々と動物達は静かに胸に手を当てて喜んだ。
今まで胸の入り口にどれだけの富を与えてもイヴ川は豊かにならなかった。
しかし、関心というものを与えてからは、イヴ川は元の美しい川に戻った。
人々と動物達は変わらずよく働き、そして二つの川に大きな関心を向け続けた。
人々は胸の入り口を通りアダム川とイブ川を自由に行き来をした。
そしてアダム川とイヴ川に家を建て畑を耕した。
動物たちは胸の入り口を通りアダム川とイヴ川を自由に行き来をした。
そしてアダム川とイヴ川の水を飲み、草を食べた。
以上が「アダム川」と「イヴ川」というお話でした。
これは心のお話です。
心というのは、胸の辺りのずっと奥の方に静かに存在していて、様々な表現をしているようです。
富や名声に満たされる心と、
関心を向けられることにより満たされる心。
この二つがあるのだと思います。
特に関心を向けられることにより満たされる心は、普段私たちは他人から得ようとしています。
しかし、他人が関心を向けてくれるかどうかは、その他人次第で、自分では決められません。
けれど、自分が自分に向ける関心は、いつでもどんな時でも関心を向けることが可能です。
それは自分次第で決められることです。
胸の中には誰でも二つの心の川が流れています。
富や名声という豊かさの象徴のアダム川には、人々はとても簡単に関心を向けられます。
しかし心の豊かさを象徴するイヴ川のことは、どんなに苦しくなってもなかなか気がつけないことが多いのではないでしょうか。
そして二つの川のどちらかが枯れても、人はバランスよく生きていくことはできないと思います。
今も数えきれないほどの沢山の人々が、自分の気持ちに気がつかずに、イヴ川を枯らし苦しんでいるのではないでしょうか。
「富と名声の豊かさだけ」の時代は終わり、「自分への関心」が重要な時代へ移り変わる時が来たと感じています。
自分が心の奥で何を感じているのか、その奥にあるものへの優しい「関心」がまず初めの大きな一歩なのだと思います。
イヴ川を枯らさない「自分への優しい関心」を向け、二つの川を大事にする限り、人々の幸せは永遠に続くのではないでしょうか。
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